
健康診断で「甲状腺に小さなしこりが見える」と言われた。追加検査の結果、甲状腺がんだった。大きさは1cmにも満たなかった。
その瞬間、衝撃で気持ちは落ち着かなくなる。本当にすぐ手術しなければならないのだろうか。甲状腺がんと診断された人の多くが、まずこの点で悩む。
甲状腺がんは韓国で最も多く発生するがんである。近年、医学界では「見つかった甲状腺がんをすべて直ちに手術すべきなのか」を改めて問い直す動きが広がっている。
超音波で見つかりやすくなったが…死亡率は大きく変わらなかった
甲状腺がんの大半は乳頭がんである。顕微鏡で見ると、がん細胞が指のように突き出た形に見えることから名付けられた。濾胞がん・髄様がん・未分化がんもあるが、全体の15%前後だ。このうち未分化がんはまれだが進行が速く、生存率も低いため、別の基準で管理する。
手術に代えて経過を見守る対象となるのは、甲状腺乳頭がんの中でも腫瘍が小さく、転移リスクが低い「低リスク微小乳頭がん」だ。増殖速度が非常に遅く、生命に大きな影響を及ぼしにくいため、小さい段階では生涯にわたり問題なく過ごす人も少なくない。
問題は、サイズの小さい甲状腺がんの診断が急増した点にある. 超音波技術の発達で、以前なら分からなかった小さなしこりまで見つかるようになった。
これを受け、医学界は治療基準そのものの見直しに動いた。 見つけやすくなったからといって、すべて治療すべきとは限らない。甲状腺がんを巡る議論の核心はここにある。
「がんなのに、なぜ取らないのか」…変わった治療基準
大韓甲状腺学会は2025年、低リスク甲状腺乳頭がんに対する「積極的経過観察」の診療推奨案を発表した。
基準は比較的明確だ。腫瘍が小さく、リンパ節転移や周辺組織への浸潤、急速に広がるリスクサインがない低リスク微小乳頭がんなら、直ちに手術する代わりに「積極的経過観察」を選べるとしている。
積極的経過観察は放置ではない。定期的な超音波検査で大きさの変化や転移の有無を継続して確認し、がんが大きくなったり広がったりする兆候があれば手術する。最初の2年間は6カ月間隔で超音波と甲状腺機能検査を行い、その後は毎年フォローアップする。
もちろん、すべての甲状腺がんを見守ればよいという意味ではない。1cm以下の微小甲状腺乳頭がんであること、リンパ節転移や肺・骨など他臓器への転移所見、周辺組織への浸潤がないことが条件だ。これらの基準から外れれば、手術が基本治療となる。
では、なぜ「見守る治療」が登場したのか。
剖検研究では、別の原因で死亡した人のうち約10%で、生前は全く気付かれていなかった甲状腺乳頭がんが見つかった。生涯にわたり特別な症状なく過ごし、後になって確認されたということだ。
小さな甲状腺がんでも、がん細胞の数自体は相当多い。0.1mmの大きさには約1000個、1mmには約100万個、1cmには約10億個前後のがん細胞があると推定される。それでも生涯にわたり問題なく過ごす人が少なくないという事実は、がん細胞の「存在」そのものより、実際に増殖し転移するかどうかがより重要であることを示している。
米国と韓国の研究では、甲状腺がんの診断が大きく増えた一方で、死亡率は大きく変わらなかった。特に米国の研究では、本来は問題を起こさなかったはずの小さな甲状腺乳頭がんまで見つけてしまう「過剰診断」の可能性が提起された。健康診断で、以前なら生涯気付かずに済んだ小さながんまで見つかるようになり、手術もそれに伴って増えた。
世界甲状腺デー…「積極的経過観察」変わった治療基準
毎年5月25日は世界甲状腺デー(World Thyroid Day)である。欧州甲状腺学会が2008年に制定し、その後、米国甲状腺学会などが参加した。
近年、米国・欧州の甲状腺診療では、見つけ次第すぐ手術するのではなく、患者の状態とがんのリスク度を併せて見て、いつ、どのように治療するかを決める方向性が強調されている。医師が一方的に決めるのではなく、患者と十分に相談し、手術するか見守るかを共に判断するやり方だ。
米国甲状腺学会は、低リスクの甲状腺微小乳頭がんにおいて「積極的経過観察」を治療戦略の一つとして認めており、欧州でも過剰診断と過剰治療を減らそうとする動きが出ている。
手術は終わったのに…体は継続的な管理が必要だった
甲状腺がん手術は、甲状腺をどれだけ切除するかによって、半切除術と全切除術に分かれる。甲状腺をすべて摘出すると、甲状腺ホルモン薬を生涯にわたり服用しなければならない。
手術で転移や再発のリスクを下げられる一方、治療が終わった後も体調の変化や管理の負担が続くことがある。
手術後に声の変化や疲労感を経験したと話す患者も少なくない。ただし、こうした変化は切除範囲や個々の状態によって差が大きい。ホルモン量の調整が難しい場合、疲労感・動悸・体重変化を訴える患者もいる。
こうした理由から、一部の低リスク患者で直ちに手術することが実際に生存率をさらに高めるのかを巡り、議論が続いている。
「甲状腺がん」と聞いた瞬間、多くの人は手術を思い浮かべる。しかし、いま医療者がより重視しているのは、がんという名称そのものよりも、大きさや種類、転移の有無、実際のリスク度である。健康診断で小さなしこりが見つかった場合は、まず大きさと転移リスクを確認する必要がある。
「甲状腺がん」という名前だけで直ちに手術を勧めていた診療のあり方は変わりつつある。
