
鳥取大学医学部で地域医療学を教えるカミモト・ミナコ教授は、鳥取県大山町出身です。彼女の故郷は、日本で人口が最も少ない県である鳥取県の中でもさらに田舎です。
カミモト教授が地域医を志したきっかけがありました。高校生の頃、祖父が別の都市の病院で亡くなりました。『祖父の最期を故郷で看取りたかった』という その無念さが、きっかけでした。
彼女が卒業した自治医大は、47都道府県がともに設立した日本唯一の公的医大です。『医療の谷間に灯をともす』という建学の精神のもと、徹底して地域医療中心の教育を行っています。カミモト教授は大学で地域医療の講座や先輩医師の講演を聞き、志を同じくする友人たちと寮生活を送りながら『地域のために働く』という使命を胸に刻みました。
8月21日にお会いしたカミモト教授は、自分の話が参考になるか分からないと言いつつも『自治医大時代の経験が生涯にわたって地域医としての道を歩む土台になった』と話しました。
「自治医大の学生には、公務員や教員、地域医の子どもたちが多いです。彼らと6年間寮で生活する中で、『地域のために働く』という雰囲気を自然に共有するようになります。また、皆が地域医療のために一つの志で集まっているという点が誇りと仲間意識を育みます。」
こうして共に医学部時代を過ごした同窓生たちは全国に散らばり、それぞれの故郷を守っています。自治医大の同窓という強いネットワークが日本の地域医療を支えてきた力のひとつです。
鳥取県の支援を受けて育った医師、再び鳥取へ戻る
カミモト教授は自治医大を卒業後、9年間の義務勤務期間中に鳥取県立中央病院や八頭総合病院、中山病院などを回りました。患者で賑わう大都市の病院とは距離のある地域の病院です。
カミモト教授はこれらの病院で現地の医療スタッフと連携し、患者を診るなかで医師として日々成長したと振り返ります。声が小さくて聞こえにくいと患者に叱られることもあれば、来てくれてありがとうと励まされることもありました。自治医大出身でも義務勤務を終えると大都市へ出る卒業生は多いです。しかし地域で働くという彼女の気持ちは、義務勤務を通じてより固いものになりました。
「医師としてだけでなく、一人の若者として地域住民と共に交わる時間でした。今でも当時の患者さんから手紙が届くことがあります。それを見るたびに原点を思い出し、その方々のために今自分に何ができるかを考えて生きています。」
カミモト教授は家庭医療専門医を取得した後、2018年に鳥取大学医学部で地域医療学の講座を担当しました。自治医大時代に抱いた医師としての夢と一致したためです。地域医を志した高校生は今や未来の地域医療に従事する医師たちのキャリア形成を支援する役割を担っています。

自治医大で学び、鳥取大で教える彼女は、両校の特徴を比較して説明しました。
自治医大は使命感と義務勤務を前面に出した『集中教育モデル』です。教養科目を最小限にし、早期に医療・地域医療の過程を集中して履修します。卒業生を臨床教員として活用し、学生を全国の地域医療現場に派遣するのも特徴です。ただし、個人のキャリアへの配慮が不足し、『しなければならない』という義務論が強く作用する雰囲気は課題です。
これに対して鳥取大学医学部は一般選抜と地域枠が約7対3の割合で共存する『混合モデル』に近いです。徐々に地域医療教育を強化している段階ですが、選抜方式によって地域医療の経験に差があり、地域枠に定員を割り当てることに否定的な雰囲気が一部にあるのが残念な点です。
鳥取大医学部の地域医療学カリキュラムは段階的に設計されています。1年次には基礎的な地域医療学を学び現場を観察します。3年次には診断学を習得し研究に参加します。4年次には家庭医学・在宅医療・老年医学を学び、5〜6年次になると日野病院や診療所で外来・病棟診療や健康教育を担当します。この過程で学生は単に医学知識を習得するだけでなく、患者とともに地域社会を見る視点を身につけます。
彼女は何より患者と直接向き合う経験が、学生の態度や進路選択に大きな影響を与えると説明しました。『大学病院の実習が傍で見守る見学型なら、地域医療学の実習は学生が主治医として患者と向き合う体験型の教育です。このような経験を通じて学生は責任感を学び、医療者としての自覚をさらに深めます。結局、住民と直接会い関係を築くことこそが地域医療学の最大の価値です』と力を込めて語りました。
人とのコミュニケーションを学ぶ独特のカリキュラムもあります。鳥取大医学部では低学年のうちに聴覚障害のある方とコミュニケーションできるよう手話を学びます。そして1・2年生を対象に『ヒューマン・コミュニケーションプログラム』も運営します。このプログラムでは学生が少人数のグループに分かれ、芸術活動や映画鑑賞を通じて他者とコミュニケーションする方法や専門職としての態度をともに学び討論します。こうした教育は医療を単なる技術ではなく人との関係として理解させる過程です。
義務勤務という壁、残るのは2〜3割にすぎない
とはいえ、日本の地域医療制度が完璧な状態にあるわけではありません。自治医大と地域定員の特別制度は日本の過疎地医療を支えてきましたが、自治医大の卒業生でさえ義務勤務を終えた後に都市へ出て行く問題が生じています。実際にカミモト教授によれば、義務勤務後に地域に残る割合は20〜30%にすぎません。そのため地域の小さな病院では後輩を指導する中堅医師が不足しているのが現状です。
鳥取県の医師のキャリアを管理する立場としてもこの状況は大きな悩みです。カミモト教授は『家庭を優先したり専門性を追求したりと現実的な選択があるため、単純に「やりがい」や「使命感」だけに頼っても地域医療体制を持続させることは難しい』と述べ、『若い医師だけに地域勤務を求めるのではなく、上級医も地域の病院に診療・教育支援に出向くことが必要で、そうしてこそ住民が安心して診療を受けられる体制になる』と強調しました。
総合診療医の重要性も強調しました。2018年に新設された総合診療医制度は、韓国の家庭医学科に似ていますが、退院後の生活支援や社会復帰まで視野に入れた包括的な支援を行う点が特徴です。『現在日本で総合診療医の割合は1〜2%にすぎません。今後は総合診療医を増やし、基本的な診療を任せ、必要なときに専門医に繋ぐ体制が必要です。』
地域医療強化が主要なテーマとして浮上している韓国へのメッセージ
カミモト教授の話は日本だけの話ではなく、韓国にもそのまま届きます。最近韓国では医学生を地域医師・公共医療医師の選抜枠で選抜し、免許取得後10年間の義務勤務を課す法案が提出されました。地域医療や公衆医療の必要性が高まっている点で、日本と共通する課題を抱えています。しかし単純な義務勤務だけでは定着効果が低いという指摘が韓国でも繰り返し出ています。
彼女は『地域医を育成するためには教育体系の中で関係を築く経験が必要です』と言います。実際に地域住民とともに生活し、『誰かのために働く』喜びを体感し、現場で先輩医師と出会うことでポジティブなイメージを植え付ける必要がある、と指摘します。加えて総合診療・在宅医療・多職種連携のようなスキルを体系的に学べるカリキュラムと、それを専門医取得に結びつける制度的な支援も提案しました。
もちろん日本の制度と韓国の現実は異なります。日本は超高齢社会で在宅診療や多職種連携が既に定着していますが、韓国は今まさに一次医療の強化や訪問診療の拡大が議論されている段階です。しかし方向性という点で両国は重なっています。彼女のメッセージは単なる体験談を超え、現在韓国が直面する公的医大の議論にも重い示唆を与えます。
「韓国の地域医療も『義務』ではなく『希望』として選ばれる未来を迎えてほしいと願っています。」
⋅ インタビュー通訳および取材協力:チョ・インスク通訳者
本企画は政府広告手数料で積み立てられた報道振興基金の支援を受けました。