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乳がんの中でも「トリプルネガティブ乳がん(TNBC)」は治療が特に難しい。エストロゲン・プロゲステロンなどのホルモン受容体(HR)とヒト上皮成長因子受容体2(HER2)受容体がすべて欠如しているため、他の乳がんで使用される標的治療薬を適用することが難しい。がん細胞の成長速度も速い。初期に治療が効果を示しても再発し、より強くなる場合が少なくない。
このようなTNBCの「耐える力(治療抵抗性)」を同時に揺るがすことができる標的候補が新たに注目を集めている。アメリカ南カロライナ医科大学(Medical University of South Carolina, MUSC)傘下のホーリングスがんセンター研究チームは「SFRP2(Secreted frizzled-related protein 2・分泌型フリズルド関連タンパク質2)」を標的としたヒト化モノクローナル抗体を開発し、腫瘍の成長と転移を抑制し、免疫反応を復活させる前臨床結果を報告した。研究結果は国際学術誌『乳がん研究(Breast Cancer Research)』の最近号に掲載された。
肺転移を減少させ、腫瘍成長を抑制…耐性細胞も「死滅」
SFRP2は腫瘍が生き残るのに適した環境を作る「助っ人」として説明される。血管新生(angiogenesis)を促進し腫瘍に栄養供給路を開き、がん細胞のアポトーシス(apoptosis)を抑制して簡単には死なないようにし、免疫細胞が疲弊する(免疫疲弊)腫瘍微小環境を変える役割が知られている。論文はSFRP2がFZD5(フリズルド-5)受容体と結合し、信号伝達経路を活性化するなど腫瘍の成長と移動に関与する作用を示した。
研究チームがヒトTNBC組織を多重免疫染色で分析した結果、SFRP2はがん細胞(87%)だけでなく腫瘍関連マクロファージ(90%)、腫瘍浸潤リンパ球(96%)でも広く観察された。「がん塊」だけを狙う標的ではなく、腫瘍周辺の免疫環境まで一緒に揺るがす手がかりとなったわけだ。
腫瘍関連マクロファージは大きく二つの性向に分かれる。免疫系を活性化してがんを攻撃する方(M1)と免疫反応を抑え腫瘍成長を助ける方(M2)である。TNBCではマクロファージがM2側に傾きやすいが、研究チームのSFRP2抗体を処理するとマクロファージがインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)をより多く分泌しM1性向に戻る信号が確認された。
動物モデルの成果も目を引く。研究チームはTNBC前臨床モデル(E0771.LMB、PY8119)で抗体を投与した際、肺転移結節数が有意に減少したと報告した。ヒトTNBC細胞株(MDA-MB-231)移植モデルでは腫瘍成長が61%抑制された。何より臨床でよく見られる難題である「抗がん剤耐性」においても可能性が示された。TNBCに一般的に使用される「ドキソルビシン」に耐性を持つMDA-MB-231細胞でもこの抗体が細胞死を誘導したという結果が含まれている。
研究チームは抗体が体内で腫瘍組織により選択的に蓄積され、正常臓器には相対的に少なく分布する様子を示した。従来の抗がん化学療法のように全身を叩く方法とは異なり、標的精度が高いほど副作用の負担を低くする余地がある。
「標的治療+免疫再設計」で二兎を追うか
今回の研究の意義は一つの効果にとどまらない。SFRP2を狙うことで、▲腫瘍成長・転移抑制 ▲免疫抑制環境の緩和 ▲治療耐性回避の可能性を同時に狙える点にある。TNBC治療では免疫抗がん剤や抗体薬物複合体(ADC)など選択肢が広がっているが、再発・耐性の壁は依然として高い。
ただし、現在の段階は人を対象とした臨床試験に入る前の前臨床段階である。安全性、適正用量、併用戦略など乗り越えなければならない関門が多い。
研究チームによると、この抗体はアメリカのバイオ企業「イノバ・セラピューティクス(Innova Therapeutics)」に技術移転され、最初の人体対象試験のための資金確保と臨床準備が進行中である。またSFRP2標的抗体開発プログラム(プロジェクト名IVT-8086)は小児骨肉腫適応症に関連してアメリカ食品医薬品局(FDA)から希少小児疾患指定(Rare Pediatric Disease)と希少医薬品指定(Orphan Drug Designation)を受けたことがある。このような「指定」はすぐに患者治療に使われるという意味ではないが、開発インセンティブを提供し臨床進入を支える装置として活用される。
*論文出典: Secreted frizzled-related protein 2 monoclonal antibody-mediated IFN-ϒ reprograms tumor-associated macrophages to suppress triple negative breast cancer. Breast Cancer Research, 2025; 27 (1) DOI: 10.1186/s13058-025-02176-6
