病変組織だけでは不十分 死亡ドナーの「正常組織」もバイオバンクへ

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心臓など生前に入手が難しい臓器組織を確保 疾患組織と比較し診断指標・治療標的の研究に

2025年 国立中央ヒト資源バンクの主な成果 インフォグラフィック=国立保健研究院

病変組織で特定の遺伝子やタンパク質が際立って多く見られたと仮定してみましょう。これだけでは、疾患に伴って生じた特徴なのか、個人差としてもともと異なるものなのかを見分けにくいのが実情です。比較対象となる「正常組織」があってこそ、その差が何を意味するのかが明確になります。

しかし、心臓や脳のように、生きている人から研究目的で正常組織を得るのが難しい臓器は少なくありません。政府が今年から、死亡ドナーの正常な臓器組織を国家バイオバンクに集めることにしたのは、こうした事情が背景にあります。

疾病管理庁・国立保健研究院は14日、「革新型バイオバンク・コンソーシアム支援事業」に死亡ドナー由来の正常組織分野を新たに追加すると発表しました。まずは心臓などを含む正常な臓器組織と関連情報を収集し、疾患組織と比較する研究に提供する計画です。

病変組織で見つかった変化、正常組織と比べてこそ意味が見える

バイオバンクは、血液・組織・DNAなどのヒト資源と臨床情報を集め、研究者が利用できるよう管理する「生命科学のデータバンク」です。単に検体を凍結保管する場所ではありません。近年はMRI・PETなどの医療画像に加え、ゲノム・プロテオーム解析情報まで併せて蓄積し、疾患の特徴や治療の手がかりを探るのに活用しています。

国立保健研究院は2016年、慢性脳血管疾患を皮切りに、肉腫がん、婦人科がん、遺伝性発達障害などへと革新型バイオバンク事業を拡大してきました。これまでは主に患者から得た資源を収集してきました。一方で、これらと直接比較できる正常な臓器組織は、相対的に入手が難しい状況でした。

今年からは死亡ドナーの組織でこの空白を埋めます。既存の婦人科がんコンソーシアム事業を終え、延世大学校産学協力団のオ・ジウォン教授が責任者を務める「死体由来正常組織コンソーシアム」を新たに支援します。これにより事業は、慢性脳血管疾患、肉腫がん、遺伝性発達障害、死亡ドナー正常組織の4分野で運営されます。

正常組織はなぜ重要なのか

例えば、心疾患患者の組織で特定の遺伝子が異常に活発に働いていると仮定してみましょう。正常な心臓でも同じ現象が一般的であれば、疾患の重要な手がかりとは言いにくくなります。逆に、正常組織ではまれな変化が患者組織で繰り返し見られるなら、疾患との関連をより詳しく検討する理由が生まれます。

こうした比較が積み重なると、膨大な遺伝子やタンパク質の中から、疾患との関連性が高い候補を絞り込めます。新たな診断指標を見つけたり、薬剤が狙う治療標的を絞り込んだりするうえで、正常組織が「基準点」の役割を果たすというわけです。

生前に得にくい心臓・脳…死後提供が空白を埋める

生きている人からでも、診療や手術の過程で得られた組織を研究に活用できます。ただ、健康な心臓や脳の組織を研究目的で切り取ることはできません。疾患組織はあっても、適切に比較できる正常組織が不足しがちな理由です。

死後に提供が行われれば状況は変わります。生前には研究用として得にくかった複数臓器の組織を確保できます。1人のドナーから複数臓器の組織を得れば、臓器ごとに遺伝子がどのように異なって働くのかも比較できます。

海外ではすでに、この方法による大規模研究が進められてきました。米国国立衛生研究所(NIH)が2010年に開始した「GTEx(Genotype-Tissue Expression)」事業が代表例です。脳・心臓・肺・膵臓・皮膚など複数の組織を集め、人や臓器ごとに遺伝子活動がどう異なるかを分析しました。

最終データには、死亡ドナー838人のDNA資料と、54の組織部位・2つの細胞株にわたる1万7382件のRNA塩基配列解析資料が含まれました。同じ遺伝子を持つ人でも、どの臓器でどれほど活発に働くかが異なる点を、大規模データで検討できるようになったのです。

GTExは、健康な組織の遺伝子活動を示す大規模な基準データを整備しました。研究者はこれを基に、患者組織で見つかった変化のうち、疾患との関連性が高いシグナルを選別できます。

ただし、死後組織は数を多く集めれば直ちに良質な研究資源になるわけではありません。死亡後に組織を採取するまでに要した時間や保存方法などによって、RNAなど生体分子の状態が変わり得るためです。いつ採取し、どのような方法で保管したのかまで、一定の基準で管理してこそ研究結果の信頼性を高められます。

今後は正常組織の数だけでなく、採取・保管の過程やドナー関連情報をどれだけ丁寧に管理するかが、研究での活用度を左右するとみられます。

図=国立保健研究院

研究者が自力で確保しにくい組織、国家バンクから提供を受けて活用

国立保健研究院が運営する革新型バイオバンクには、2025年末までに計3648人分のヒト資源が集まりました。内訳は、慢性脳血管疾患1755人、肉腫がん1089人、婦人科がん404人、遺伝性発達障害400人分です。

このうち1645人分が研究者に公開・分譲されました。関連研究は国際学術誌論文46編、特許10件、技術移転3件、事業化1件につながりました。認知症のデジタル治療薬やセルフケアのメンタルヘルス管理技術、AI基盤のコンテンツ毒性分析技術なども、この事業で確保した資源を活用して開発されたと研究院は説明しました。

バイオバンクの利点は、研究者が必要な患者や組織を最初から自ら探して集めなくてもよい点にあります。特に希少疾患や入手が難しい臓器組織は、単一の研究機関が十分な量を確保するのは容易ではありません。国が一定の基準で管理した資源を集めて研究者に提供すれば、研究開始に必要な時間と負担を減らせます。

範囲を韓国ヒト資源バンク全体に広げると、2025年末時点の累計ヒト資源は139万人分です。ヒト資源の分譲を受けた研究課題は累計5854件、関連特許の登録・出願は246件と集計されました。

今回、死亡ドナーの正常組織まで加われば、国家バイオバンクの役割はさらに広がります。こうして蓄積された正常組織は、疾患に関連する変化をより精密に見分ける比較基準になります。さらに、新たな診断指標を見つけたり、治療薬が狙う標的を発掘したりする研究にも活用できます。

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