失明リスクの遺伝性網膜疾患、原因遺伝子5候補をAI支援で89%的中

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295人の無作為化比較試験で専門医単独67.3%→AI補助88.5%…遺伝子検査前の候補選別精度が向上

眼科の診察室で、医師が眼底写真と光干渉断層撮影(OCT)画像を見ながら、患者に検査結果を説明している。記事の理解を助けるために作成したAI生成画像。
眼科の診察室で、医師が眼底写真と光干渉断層撮影(OCT)画像を見ながら、患者に検査結果を説明している。記事の理解を助けるために作成したAI生成画像。

見た目が似た網膜疾患でも、どの遺伝子に異常が生じたかによって治療や遺伝カウンセリングの方針が変わり得ます。問題は、遺伝性網膜疾患に関連する遺伝子が300個を超え、正確な原因を突き止めるのが容易ではない点です。

こうした状況で、眼科で一般的に撮影する網膜写真や検査結果を人工知能(AI)が解析し、原因として疑われる遺伝子を事前に絞り込む手法が、実患者を対象とした臨床試験で有効性を示しました。専門医が単独で判断した場合は67.3%だった「上位5つの原因遺伝子候補」の的中率が、AIの支援を受けると88.5%に上がりました。

セブランス病院眼科のハン・ジヌ教授、ピョン・ソクホ教授と、江南セブランス病院眼科のイ・ジュンウォン教授らが参加した国際共同研究チームは14日、遺伝性網膜疾患の原因遺伝子を予測するAI臨床意思決定支援システム「Retina4IRD」を開発し、実診療での活用可能性を確認したと発表しました。研究成果は7月24日、国際学術誌 〈ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)〉 に掲載されました。

300個超の原因遺伝子…正確な特定が治療への道を開く

遺伝性網膜疾患は、遺伝子異常によって網膜機能が低下する希少疾患群です。網膜色素変性症をはじめ、複数の疾患が含まれます。患者によっては視野が徐々に狭くなったり視力が低下したりし、重症では失明に至ることもあります。

原因遺伝子の特定は、病名の確認にとどまりません。今後の視力変化の予測や、家族への遺伝の可能性を相談する過程でも必要です。特定遺伝子を標的とした治療薬や臨床試験に参加できるかどうかも、原因遺伝子によって変わります。

米国で承認された遺伝性網膜疾患の遺伝子治療薬「ルクスターナ」は、すべての患者が使用できるわけではありません。PE65という特定の遺伝子変異が確認された患者のみが治療対象です。つまり、どの遺伝子に異常が生じたのかを正確に把握してこそ、治療機会につながるという意味です。

しかし、原因を探る過程は簡単ではありません。遺伝性網膜疾患は関連遺伝子が多く、同じ遺伝子異常でも患者ごとに眼に現れる所見が異なる場合があります。逆に、異なる遺伝子異常が似た網膜変化を示すこともあります。

(左から)セブランス病院眼科のハン・ジヌ教授、ピョン・ソクホ教授と、江南セブランス病院眼科のイ・ジュンウォン教授 写真=延世医療院
(左から)セブランス病院眼科のハン・ジヌ教授、ピョン・ソクホ教授と、江南セブランス病院眼科のイ・ジュンウォン教授 写真=延世医療院

研究チームは、こうした複雑なプロセスを減らすためにRetina4IRDを開発しました。「Retina」は網膜を意味し、「IRD」は遺伝性網膜疾患(Inherited Retinal Disease)の英語略称です。

Retina4IRDは、眼底写真と光干渉断層撮影(OCT)画像を解析します。眼底写真は、眼の奥の網膜を撮影して異常の有無を確認する検査です。OCTは光を用いて、網膜の断面構造を層ごとに示します。

AIはこれに加え、年齢や性別、家族歴、症状が始まった年齢、罹病期間といった臨床情報も併用します。眼の写真だけで原因遺伝子を当てる方式ではありません。画像と患者情報を合わせて確認し、原因である可能性が高い遺伝子候補を絞り込みます。

研究チームは、韓国・中国・ポーランドの9医療機関で、遺伝子検査により診断が確認された患者1843人、3376眼のデータを用いてAIを開発・検証しました。Retina4IRDは、治療薬がある、または臨床試験が進行中の遺伝子などを含む17の遺伝子カテゴリーの中から、原因である可能性が高い候補を提示します。

研究チームによる内部検証では、実際の原因遺伝子がAIの提示した上位5つに入った割合は90.4%でした。別の患者データで再検証した場合も85.6%を記録しました。

無作為化比較試験の結果、主要評価項目であるTOP-5遺伝子予測精度は、AI補助群が88.5%で、専門医単独群の67.3%と比べて高い精度を示した。図=延世医療院
無作為化比較試験の結果、主要評価項目であるTOP-5遺伝子予測精度は、AI補助群が88.5%で、専門医単独群の67.3%と比べて高い精度を示した。図=延世医療院

専門医単独では67.3%…AI支援で88.5%

研究チームは、AIが実診療でも役立つかどうかを確かめるため、無作為化比較試験を実施しました。

遺伝性網膜疾患が疑われる患者300人を2群に分けました。一方の専門医にはAIが提示した情報を提供し、もう一方はAIなしで判断するようにしました。その後、遺伝子検査結果が確認された295人を最終解析しました。医療者が患者の原因として疑われる遺伝子5つを選び、実際の遺伝子検査結果と比較したものです。

AIの支援を受けた専門医は、実際の原因遺伝子を上位5候補に含めた割合が88.5%でした。専門医が単独で判断した場合は67.3%でした。

最も有力と判断した遺伝子1つだけで比較しても差が出ました。AI補助群は37.8%、専門医単独群は22.4%でした。

AIが遺伝子検査を代替するわけではない

とはいえ、AIが遺伝子検査を代替するわけではありません。Retina4IRDは、遺伝子検査に先立ち、どの遺伝子を優先して確認するかについて医療者の判断を支援するツールです。最終的にどの遺伝子変異が疾患を引き起こしたかは、次世代シーケンス(NGS)などの遺伝子検査で確認する必要があります。

今回の研究では、検査費用の削減幅や診断までの期間短縮までは検証していません。臨床試験で確認した核心は、AIを活用した場合に専門医が原因遺伝子候補をより正確に選び出した点です。費用や診断期間短縮の効果は、実診療に適用した後に追加で検討する必要があります。

研究チームは、眼科診療で一般的に用いる画像と臨床情報を活用したAIシステムの有用性を、前向き無作為化比較試験で確認した世界初の事例だと説明しました。

ハン・ジヌ教授は「Retina4IRDは医師に代わって診断を下すものではなく、遺伝子検査の前に可能性の高い原因遺伝子を先に絞り込む事前スクリーニングツールとして活用されることを期待しています」とした上で、「不要な検査費用を減らし、診断までに要する時間を短縮するのはもちろん、遺伝子治療のように治療時期が重要な患者を早期に選別し、精密医療の実現に寄与するでしょう」と語りました。

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