
仁川のある療養病院で、脚の壊死が進行した89歳の女性患者の切断処置が病室で行われた事案を受け、超高齢の重症患者をめぐる医療提供体制の空白を点検すべきだとの声が強まっています。
医療法違反に当たるかどうかは捜査で判断されるべき事案ですが、現職医師の一部は、今回の出来事を特定の療養病院だけの問題として片付けるのではなく、「行き場のない重症の高齢患者を誰が担うのか」という構造的な課題も併せて検討すべきだと指摘しています。
警察によると、地域の大病院で治療を受けていたA氏は「これ以上の治療は難しい」との判断で退院した後、入院可能な医療機関を探し回った末、今月1日に仁川のY療養病院に入院しました。病院側は、保護者の要請により1週間後の8日、病室で壊死した脚の部位を処置したと警察に供述したといいます。
警察は病院側の供述を踏まえ、「患者の膝の部位はすでに分離した状態で、後方の一部組織だけをはさみで整えた」と明らかにしました。病院側は当時、患者の神経が損傷しており、麻酔が不要なほどだったとも説明したとされています。
病院側の説明については、医学的にも一定程度は説明できるとする見方があります。血液供給が長期間遮断されて壊死が進むと、死んだ組織と正常組織の間に境界が形成され、重症の場合には壊死組織が自然に分離する例も報告されています。このため、病院側の供述どおりであれば、今回の処置は正常組織を切断したというより、すでに壊死した組織を除去または整理する過程だった可能性がある、との見方も示されています。
今回の事案について、ヤン・ソングァン氏(議政府白病院・家庭医学科課長)は22日、自身のソーシャルメディア(SNS)に「病院と医師は患者を放置せず、自分たちにできる範囲で最善を尽くそうとしたと考えられる」と投稿しました。ヤン氏は「特別な治療がない状態で大学病院に長くいるのは難しい」とした上で、「だからといって、腐った脚がある心不全患者を自宅や医師のいない介護施設に連れて行くこともできない。残る選択肢は療養病院しかない」と述べました。
さらに「今回の事案でY療養病院が、事実上の廃業に当たる営業停止処分を受けることになれば、今後はどの療養病院も医師も、脚が腐っていく患者を進んで受け入れようとしなくなるだろう」と指摘しました。そのうえで「仮に入院させても、リスクを負って積極的に処置するより、できるだけ手を出さない方向を選ぶ可能性が高い」と懸念を示しました。
医師のシン・ジェウク氏も20日、ユーチューブチャンネル『ドクシンTV』で、「病室で処置が行われたという事実より重要なのは、患者を受け入れる病院がなかった点だ」と述べ、「療養病院だけを処罰すれば、今後はこうした患者を敬遠する現象が強まる可能性がある」と主張しました。
重症の高齢患者は、どこで治療を受けられるのか
急性期治療を終えた後も継続的な医療処置が必要な超高齢の重症患者を、安定して引き継げる医療機関は多くありません。
高齢患者の家族が代替案としてよく検討する選択肢の一つである介護施設は、「老人長期療養保険法」に基づく長期療養施設で、医療機関ではなく福祉施設です。長期療養等級を受けた高齢者を対象に、介護と日常生活支援を提供する場所で、医師は常駐していません。つまり、手術や感染管理、専門的な創傷処置などの医療行為は行えません。
一方、療養病院は医師が常駐する医療機関で、主に慢性疾患の管理と長期入院患者の医療・リハビリを担います。医療法上、療養病院は手術室の設置が義務ではなく、回復期リハビリ医療機関の指定基準でも手術室の設置は必須要件と規定されていません。このため、多くの療養病院と回復期リハビリ医療機関は、救急手術よりもリハビリと長期の医療管理に重点を置いて運営されています。
つまり、介護施設では医療的に対応が難しい患者が療養病院へ転院しても、療養病院側も積極的な手術や救急処置を行うインフラには限界があります。ただ、大学病院がこうした患者を長期入院で治療できる構造でもない、との指摘も出ています。
現在、上級総合病院は、がんや重症外傷、心・脳血管疾患など高難度の急性期疾患を中心に機能が再編されています。政府は上級総合病院が重症・救急患者の診療に集中するよう役割を調整しており、急性期治療を終えた患者は地域の総合病院や療養病院などへつなぐ医療提供体制の強化を進めています。
シン氏は「大学病院がA氏のような重症の高齢患者をすべて長期入院させれば、急性期病床が事実上の療養病床に変わり、救急・重症患者を治療する余力が減りかねない」と述べたうえで、「逆に療養病院までこうした患者を敬遠するようになれば、結局、患者は行き場を失う」と指摘しました。
