
デビアスは「ダイヤモンドは永遠に」というキャッチコピーで広く知られている。この会社を子会社として持つ巨大鉱山企業がアングロアメリカンである。シンシア・キャロルは2007年3月にアングロアメリカンの最高経営者(CEO)に就任した。この会社初の女性CEOであった。
キャロルが就任して3ヶ月が経ったとき、子会社アングロアメリカンプラチナのプラチナ鉱山で死亡事故が発生した。彼は報告を受けるとすぐにプラチナ鉱山9つの坑道の操業を全面中止するよう指示した。プラチナ鉱石を掘らないのに人件費はそのままかかるため、これを含む金額がそのまま会社の損失として蓄積される措置であった。鉱山の人命事故に対して前任のCEOたちが操業全面中止で対応しなかった理由であった。
巨額の損失を覚悟して全面操業中止措置を下した力は?
「鉱山の操業を再開する前に、すべての労働者の意見を聞かなければなりません。」キャロルはこう指示した。アングロアメリカンプラチナは現場で認識されていたが見過ごされていた危険を把握し、安全教育を行った。同時に、より高い基準に合わせて坑道を改善した。そうして数週間の間に4000万ドルの損失を耐えながら全面的な対応を実行に移した。その後も根本的な措置を続けた。例えば、翌年2月には世界中の模範事例を基に「死亡事故予防10大則」を策定し、適用に入った。
以前は年間29人だった死亡者数は、キャロルが在任していた期間には年間13人に減少した。
この事例はローラ・ファンアメリカ・ノースイースタン大学経営学部の特任教授が書いた『直感の力』に紹介された。最近国内に翻訳・出版されたこの本の原題は「あなたはすでに知っている:直感をマスターする科学(You Already Know: The Science of Mastering Your Intuition)」である。
ファン教授は主に個人の判断と意思決定、不確実な環境での成功戦略を研究している。キャロルは直感を高度化した経営者であり、だからこそ人命事故が発生したときに即座に大胆な措置を決定し実行できたとファン教授は解釈する。
「直感で情報と経験を処理すると直感が発達する」
ここまでじっくり読んだ読者は気づいたことでしょう。国内の翻訳書ではタイトルで「直感」と言っているが、原書では「直観(Intuition)」と言っている。この二つの概念の違いは何か?これについて著者は「直観」はプロセスであり、そのプロセスが蓄積されて発揮される能力が「直感(gut feel)」であると説明する。
「直観は非順次的な情報処理プロセスである。直観は情報に接し、外部データと個人の知識及び経験の相互作用を通じて何かについて判断したり決定を下すことができる、短いまたは長い処理プロセスである。直観はプロセスであり、その結果として私たちが直感として認識する一瞬の明瞭さが現れる。」
『直感の力』は「直感を意思決定の武器に変えた」代表的な人物であるキャロルの言葉を引用していない。キャロルが役員たちに引き止められても大胆な決定を迅速に下すことができた力は何だったのだろうか。
関連記事を見てみると、キャロルはその事故が起こる前から、アングロアメリカンのCEOに就任する前から、操業現場の人命事故に対して問題意識を持っていた。だから鉱山事故を「必然的に起こる定数」ではなく「改善可能な変数」と捉えていた。特に子会社の南アフリカのプラチナ鉱山が安全面で最悪のレベルであることを知っていた。目標を設定し減少させることができる変数という考えを裏付ける改善事例を調査しておいた。人命事故を減らすための対策の種類と実行順序も大まかに頭の中に入れていた状態だった。
事故を「避けられない定数」ではなく「改善可能な変数」と捉える
したがってキャロルにとってその事故は予期しない状況というよりは、対策を引き出すための引き金であったと言える。鉱山操業の全面中止は既存の経営陣が見れば繰り返される事件に対する予期しない措置であったが、キャロルにとっては当然の対応であった。
キャロルの対応方法は「感覚」という概念で説明できる。感覚は特定の事件や状況を適切なタイプ(カテゴリー)に分類し、そのタイプで既に効果が証明された解決策を適用するために使われる。これをプラチナ鉱山事故に適用すると投げかけるべき質問は次のようになる。「偶発的か、慢性的か。慢性的であれば改善可能なタイプか、改善努力の効果が小さいタイプか、改善効果が大きいタイプであれば既に効果を示した方法は何か?」
一方、こうした質問を提起する前提は価値の再設定である。キャロルは「このレベルの死亡と負傷は受け入れられない」と言い、事故を避けられないものと考える既存の視点を拒否した。そして収益性に先立って人の命と安全が重要であるという価値判断を繰り返し強調した。
仕事ができる人の感覚は普段具体的な状況を抽象化する練習から育まれる
「直感」と「感覚」はほぼ重なる概念である。後者は日本の企業文化で強調される。日本の教授とコンサルタントが共著した『仕事ができるということ』では、感覚は「新しい仕事や状況に直面しても確信を持って迅速に意思決定を行うことができる」源泉として説明されている。
確信と迅速さはどこから来るのか。この本はその背景を次のように語る。
「ビジネスの世界では必ずその人にとって未知の新しい現象が毎日現れるものです。しかし、それを自分なりの論理で抽象化する人にとっては漠然とした未知の世界ではありません。内在している自分の経験と知識を引き出して理解し活用できるので、未知の世界も『いつか通った道』であり『いつどこかで見た風景』になります。したがって新しい仕事や状況に直面しても確信を持って迅速に意思決定を行うことができるのです。」
二人の著者はその感覚について本能的で先天的なものと考えがちだが、実際にはかなり後天的であると言う。「皆それぞれの試行錯誤の中で時間をかけて磨いてきたものです。」
では、どうすれば感覚を、あるいは直感を発達させることができるのか?「簡単ではありません。だから完璧な答えはありませんが、『具体と抽象の往復能力』が最も近い答えではないかと思います。」
勉強頭と仕事頭が異なると言われている。その違いの大部分は教科書や参考書で学んだ状況と現場で直面する状況が異なることから生じる。仕事頭を発達させたいのか?普段現実で直面する具体を抽象化する、あるいは事例をカテゴリー化する練習をしながら「感覚」または「直感」を磨いてほしい。

