がん・高血圧・糖尿病……「完全たんぱく質」肉の落とし穴

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【ソン・ムホのビーガンニュース】142.サルコペニア⑦

ミディアムに焼いた牛肉は食欲をそそります。キノコとミニトマトを加熱して添えれば、さらに満足感のある一皿になります。ですが、「完全たんぱく質」とされる肉が、実はがん、高血圧、糖尿病などを招く主要因だというのです……。写真=クリップアートコリア

動物性たんぱく質は必須アミノ酸をすべて含む「完全たんぱく質」、植物性たんぱく質は一部の必須アミノ酸が不足する「不完全たんぱく質」――。こうした理解が広く浸透してきたため、動物性たんぱく質を選ぶ人が多いのも自然な流れです。

ただ、「完全」「不完全」という二分法は、食品のアミノ酸組成を説明する生化学的な概念にとどまります。人の食事や健康にそのまま当てはめられる栄養学的概念ではありません[1, 2]。

現在の栄養学で重視されるのは、単一の食品に含まれるたんぱく質ではなく、1日全体の食事に含まれるたんぱく質です。人体は肝臓と血液内にアミノ酸の貯蔵庫(Pool)を備えているため、1食ごとに必須アミノ酸を完璧にそろえる必要はありません。1日の多様な植物性の食事を通じて必須アミノ酸を十分に摂取でき、問題はないとされています[3, 4]。

それでも、従来の固定観念に基づく「動物性たんぱく質中心」の摂取を、いわゆる専門家の勧めとして続けると、「早期死亡」という深刻な問題につながります。動物性たんぱく質が5つの重大な疾患を引き起こすためです。きょうはそのうち3つを先に見ていきます。

1. がんリスクの増加

動物性たんぱく質、とりわけ加工肉と赤身肉は発がん物質です。2015年10月26日、世界保健機関(WHO)は、ハムやソーセージなどの加工肉を、たばこと同様に発がんリスクが高い「グループ1の発がん性物質」に分類しました。牛肉や豚肉などの赤身肉は、発がん性が高い「グループ2Aの発がん性物質」に位置付けました。WHOは、これらの摂取が大腸がん、膵臓がん、前立腺がんのリスクを高めると発表しています[5]。

2. 高血圧および心血管疾患の増加

動物性食品に多く含まれる「コレステロール」と「飽和脂肪」は、血管を狭くする動脈硬化を招き、高血圧の発症リスクを高めます。特に赤身肉は高血圧を引き起こします。

最近(2025年)の米カリフォルニア大学の研究では、赤身肉の摂取量が1日100g増えるごとに、高血圧リスクは14%高まりました。加工された赤身肉では関連がさらに強く、1日50g追加されるごとに高血圧リスクが12%高まりました。加工肉に一般的に添加されるナトリウムや保存料(例:亜硝酸塩、硝酸塩)も血圧を上昇させます[6]。

赤身肉や卵などの動物性食品に多い「コリン」は、腸内細菌によって分解された後、肝臓で「TMAO(トリメチルアミンN-オキシド)」という血管毒性物質に変化します。これが血管内壁に炎症を起こし、心筋梗塞、脳卒中のリスクを高めます。

米国立衛生研究所(NIH)の支援を受け、米クリーブランド・クリニックで冠動脈造影を受けた患者4,007人を対象に、血漿TMAO値と主要心血管イベント発生率(心筋梗塞、脳卒中、死亡)との相関を3年間追跡した研究では、TMAO値が高い群は低い群に比べ、主要心血管イベントの発生リスクが約2.5倍に増加しました(下のグラフ)[7]。

* WW Tang, et al. NEJM 2013

2024年、ハーバード大学が大規模研究3件(男女の医療専門職約20万人、30年追跡)を分析した結果、植物性たんぱく質に比べて動物性たんぱく質の摂取比率が高い群は、心血管疾患および冠動脈疾患のリスクがそれぞれ19%と27%高いことが分かりました[8]。

赤身肉の飽和脂肪はLDLコレステロール値を上げるため、白身肉(鶏肉、七面鳥)を食べるべきだという主張もあります。

カリフォルニアのオークランド病院では、健康な成人113人を無作為に分け、赤身肉、白身肉、植物性食の食事をそれぞれ4週間摂取させた後に血液検査を行いました。その結果、赤身肉だけでなく白身肉も、LDLコレステロールとアポリポたんぱくB(Apo B:動脈硬化を引き起こす主要因子)の値を上昇させました。白身肉の摂取も心血管疾患の観点で安全ではありませんでした[9]。

そのため、心血管の健康が気になる方は動物性たんぱく質を選ぶべきではありません。一方、植物性たんぱく質はコレステロールがまったくなく、飽和脂肪の含有量は低く、食物繊維は非常に多いため、コレステロール値と血圧を下げて心血管の健康を守ります。

3. 糖尿病の増加

多くの方が「糖尿病は炭水化物や糖類(甘いもの)を食べ過ぎてなる病気」だと考えていますが、実際には動物性食品とともに体内に入る過剰な「飽和脂肪」が原因です。筋細胞や肝細胞に生じた異所性脂肪(Ectopic fat:あってはならない場所に付着した油汚れ)による「インスリン抵抗性」のために糖尿病が起こります[10]。

ご飯(炭水化物)を食べると、消化管でブドウ糖に分解・吸収された後、血液に入ります。ブドウ糖は細胞内に入ってエネルギーとして使われなければなりません。このとき膵臓は、「細胞の扉を開ける鍵」の役割をする「インスリン」というホルモンを分泌します。インスリンが細胞膜にある「鍵穴(インスリン受容体)」に結合して錠を開けると、ブドウ糖の出入り口(GLUT4)が開き、血液中のブドウ糖が細胞内に入ります[11]。

過剰に摂取された脂肪によって生じた油汚れは鍵穴を塞ぎ、細胞の扉が開かない「インスリン抵抗性」を引き起こします。食事で入ってきたブドウ糖が細胞内に入れず血液中に残ったままだと血糖値が上がり、最終的に尿に糖が漏れ出る「2型糖尿病」が発生します。

動物性たんぱく質を摂取すると、飽和脂肪とコレステロールが一緒についてきます。以前はコレステロールが血管だけを詰まらせると思われていましたが、最新の研究によれば、過剰なコレステロールはインスリンのシグナル伝達を妨げ、膵臓細胞内の「ミトコンドリア」まで破壊して糖尿病をさらに悪化させます[12, 13]。

赤身肉や加工肉中心の「西洋型食事」は「インスリン抵抗性」を引き起こすため、糖尿病の最大の原因としてよく知られています[14, 15]。

2023年、ハーバード大学が21万人を対象に肉の摂取と糖尿病の関係を調べた研究では、週に2回だけ赤身肉(牛肉・豚肉)を摂取しても糖尿病の発症リスクが増加しました。赤身肉を多く摂取した人は、少なく摂取した人に比べて2型糖尿病のリスクが62%高くなりました[16]。

この研究は米CNNニュースで取り上げられるほど話題となり、CNNはここで、糖尿病予防のためには肉の摂取を制限すべきだと報じました(下の記事)[17]。

結局、「完全たんぱく質」とされる動物性たんぱく質を主に摂取すると、がん、高血圧、糖尿病のリスクにさらされ、早期死亡の危険が高まります。

完全たんぱく質という文句に惑わされないようにしましょう。従来の通念に刷り込まれてきた方には理解しにくいかもしれませんが、「不完全たんぱく質」である植物性たんぱく質のほうが健康にはより良いのです。(次回に続く)

ソン・ムホ 医学博士、整形外科・生活習慣医学専門医

参考文献

1. VR Young, PL Pellett. Plant proteins in relation to human protein and amino acid nutrition. Am J Clin Nutr 1994;59(5 Suppl):1203S-1212S.

2. J McDougall. Plant foods have a complete amino acid composition. Circulation 2002;105(25):e197-e197.

3. F Mariotti, CD Gardner. Dietary Protein and Amino Acids in Vegetarian Diets-A Review. Nutrients 2019;11(11):2661.

4. EJ Arentson-Lantz, Z Von Ruff, G Connolly, et al. Meals Containing Equivalent Total Protein from Foods Providing Complete, Complementary, or Incomplete Essential Amino Acid Profiles do not Differentially Affect 24-h Skeletal Muscle Protein Synthesis in Healthy, Middle-Aged Women. J Nutr 2024;154(12):3626-3638.

5. V Bouvard, D Loomis, KZ Guyton, et al. Carcinogenicity of consumption of red and processed meat. The Lancet Oncology 2015;16:1599-1600.

6. TS Allen, M Najem, AC Wood, et al. Red meat consumption and hypertension: an updated review. Current Cardiology Reports 2025;27(1):50.

7. WW Tang, Z Wang, BS Levison, et al. Intestinal microbial metabolism of phosphatidylcholine and cardiovascular risk. New England Journal of Medicine 2013;368(17):1575-1584.

8. AJ Glenn, F Wang, AJ Tessier, et al. Dietary plant-to-animal protein ratio and risk of cardiovascular disease in 3 prospective cohorts. The American Journal of Clinical Nutrition 2024;120(6):1373-1386.

9. N Bergeron, S Chiu, PT Williams, et al. Effects of red meat, white meat, and nonmeat protein sources on atherogenic lipoprotein measures in the context of low compared with high saturated fat intake: a randomized controlled trial. The American journal of clinical nutrition 2019;110(1):24-33.

10. VT Samuel, GI Shulman. Mechanisms for insulin resistance: common threads and missing links. Cell 2012;148(5):852-871.

11. J van Gerwen, AS Shun-Shion, DJ Fazakerley. Insulin signalling and GLUT4 trafficking in insulin resistance. Biochem Soc Trans 2023;51(3):1057-1069.

12. M Warda, S Tekin, M Gamal, et al. Lipid rafts: novel therapeutic targets for metabolic, neurodegenerative, oncological, and cardiovascular diseases. Lipids in health and disease 2025;24(1):147.

13. B Manandhar, E Pandzic, N Deshpande, et al. ApoA-I protects pancreatic β-cells from cholesterol-induced mitochondrial damage and restores their ability to secrete insulin. Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology 2024;44(2):e20-e38.

14. RM van Dam, EB Rimm, WC Willett, et al. Dietary patterns and risk for type 2 diabetes mellitus in U.S. men. Ann Intern Med 2002;136:201–209.

15. TT Fung, M Schulze, JE Manson, et al. Dietary patterns, meat intake, and the risk of type 2 diabetes in women. Arch Intern Med 2004;164:2235–2240.

16. X Gu, JP Drouin-Chartier, FM Sacks, et al. Red meat intake and risk of type 2 diabetes in a prospective cohort study of United States females and males. The American Journal of Clinical Nutrition 2023;118(6):1153-1163.

17. CNN Health https://edition.cnn.com/2023/10/19/health/red-meat-type-2-diabetes-risk-study-wellness/index.html

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