身近に潜む陰謀論――賢い人でも「この状況」ではハマる

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[ペク・ウジンの心身探究]

世界は表に出ていない勢力や要因によって動かされている――そんな陰謀論は、私たちの心をくすぐる。写真=Mangostar/shutterstock

米国のアポロ11号の月面着陸映像と写真は、スタジオで捏造された。

米国政府は、地球を訪れた地球外生命体の証拠を隠している。

世界は少数で構成された秘密結社によって左右されている。

人間は生まれつき物語が好きで、不思議なストーリーに惹かれる。これは、私たちが陰謀論に陥り得る要因の一つだ。上に挙げた陰謀論が信奉者のグループを形成した理由でもある。

陰謀論は大きく2種類に分けられる。第一は、娯楽で終わるタイプで、上の3つの陰謀論の多くは「どう? すごくワクワクするでしょ?」で止まる。だが、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は作られたもので、ワクチンは詐欺だ」「気候危機など存在しない」といった第二の陰謀論は、人々や社会に影響を与えようとする。こうした陰謀論は、健康な現在と持続可能な未来をつくる取り組みを妨げる。

そもそも私たちは、わりと簡単に信じてしまう。小さな事例から始まる。次の文は、ナチス・ドイツの宣伝大臣だったパウル・ヨーゼフ・ゲッベルスが残した言葉として、長年引用されてきた。

「嘘は最初は否定され、次に疑われる。しかし繰り返せば、やがて人々は信じるようになる。」

考えてみよう。嘘を宣伝しながら、その戦略を上のように暴露するだろうか。日記でもない限り、あの文を公に書くことはまずない。ゲッベルスは日記にもこの文を書いていない。

2カ月前、ある記事が、世界に広く流布したこの「名言」が作り物であることを指摘した。(出典:「『嘘を繰り返せば真実になる』という嘘」、ハンギョレ新聞、2026.02.14.)しかしこの記事は、これに近いメッセージが宣伝戦略ではなく、ドイツ人を扇動するために直接用いられたという事実と文脈までは検討していない。

アドルフ・ヒトラーは、この引用文に似たことを述べている。ヒトラーは、ドイツ人に向けて書き連ねた長広舌の 〈我が闘争〉 で、「大衆は小さな嘘よりも大きな嘘のほうに、より容易に騙される」と主張した。ここでいう「大衆」とは、ヒトラーがゲッベルスとともに洗脳しようとした大衆ではなく、(ヒトラーの考えでは)ユダヤ人が広めた嘘に騙されたドイツ人のことだ。

ヒトラーの陰謀論は「二重」だった。彼は「ユダヤ人が大きな嘘(陰謀論)でドイツ人を騙したせいで、ドイツは第一次世界大戦に敗れた」という陰謀論を広めた。彼の二重の陰謀論を、直接聞いてみよう。

陰謀論の極端さが示す、反面教師としての教訓

「何のためらいもなく嘘をつける能力を持つユダヤ人たちと、彼らとともに戦う同志であるマルクス主義者たちが、(中略)ただ一人、超人的な意志と精力を示していたまさにその人物に、没落の責任をなすりつけた。」

「その人物」とは、ドイツ陸軍の参謀次長として軍事独裁を行いながら戦争を指揮した、エーリヒ・ルーデンドルフを指す。

ナチスは「ユダヤ人陰謀論」を土台に勢力を得た。言い換えれば、第一次世界大戦の敗北後、ドイツ人は「すべてはユダヤ人のせいだ」というナチスの主張を積極的に支持した。「背後からの一突き(背後の短剣)」神話、すなわちドイツ軍は前線で勇敢に戦ったのに、後方のユダヤ人と共産主義者が裏切ったため戦争に負けた、という主張が、落胆したドイツ人を慰めた。

合理的だと自負していたドイツ人が、ばかげた陰謀論を信奉し、ナチスを政権に就け、狂気がホロコーストへと突き進む過程で積極的に支持し加担した。(この過程を全体として追ってみると、ハンナ・アーレントが提示した「悪の凡庸さ」という主張が、いかに断片的かが分かる。)

陰謀論には確実なワクチンがない。客観的に学業成績が高い賢い人でも、陰謀論に陥る。陰謀論の心理学を研究する専門家は、知能よりも性向が陰謀論への「感染」に影響すると言う。パターン探しが好きな性向や、直感に依存する傾向が強い人は、相対的に陰謀論にハマりやすいと説明する。

陰謀論のうち、社会を変えようとするタイプには警戒が必要だ。とりわけ、ナチスがユダヤ人を名指ししたように、特定の集団を悪の元凶だとして非難する陰謀論は、権力と結びつくか、あるいは権力の黙認のもとで惨劇へと突き進む危険が大きい。不正選挙の陰謀論は米国でも広がり、日本でも拡散したが、韓国国内では中国嫌悪と結びついた点で、警戒レベルを上げるべき類型だ。

ストレスが極限なのに、見知らぬ誰かを責めたくなったら

心理学者ダン・アリエリーは、陰謀論を分析した著書 〈ミスビリーフ〉 で、予期しないストレス状況に置かれた人は学習性無力感に陥り得ると分析する。(第一次世界大戦で敗れたドイツ人は、莫大な戦争賠償金の負担に押しつぶされていた。)そして、ストレスが蓄積すると誤った信念をあおると警告する。やがて誤った信念の中心に「悪役」を置くようになるが、アリエリーは「人間は昔から悪役を愛してきた」と説明する。むしろ、惨憺たる現在の状況が自分のせいではなく、特定の勢力が作り出した結果だとして責任を転嫁したい、心理的メカニズムなのだろう。

アリエリーが扱わなかった点が、陰謀論の商業化だ。インターネット空間には、ただクリックを誘うためだけに創作された、ありとあらゆる陰謀論があふれている。そうしたコンテンツは、社会・政治的な信念を持つ人々から基本的な支援を受ける。注目を集めるマーケティング手法が精巧に駆使された陰謀論の「漏斗」に、最初は好奇心で近づいた人々が、徐々に引き込まれていく。

社会・政治的な陰謀論は、パンデミックに匹敵する結果を生み得る。そうした陰謀論がパンデミックより恐ろしい側面は、憎悪と反動を生むことだ。

誰でもそうした陰謀論に陥り得る。私も例外ではない。ゲッベルスの「名言」を疑わなかった人なら、まず簡単に引っかかると見てよい。

ストレスが強いだろうか。誰かを責めたくなっているだろうか。そうなら、英国生まれのグラフィックノベル作家アラン・ムーアの次の言葉を思い出してほしい。

「人々が陰謀論を信じるのは、それがより心を楽にしてくれるからだ。」

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