
ある日突然、歯磨きの最中に顔の片側を電気が走るような痛みが走ります。洗顔しようと頬に手を当てただけで、刃物で切られたような痛みが数秒続き、ご飯を噛んだり話したりすることさえ怖くなります。それでも鏡を見ると、顔には目立った異常がありません。
多くの人は、こうした痛みを歯痛や一時的な神経過敏だと思い、様子を見がちです。実際、最初に歯科を受診するケースも少なくありません。ただ、このタイプの痛みが繰り返される場合は、「三叉神経痛」を疑う必要があります。
三叉神経痛(三叉神経痛, Trigeminal Neuralgia, TN)は、顔の感覚を担う三叉神経の領域に、発作性の激しい痛みが現れる疾患です。多くは脳内の血管が三叉神経を圧迫して発症するとされています。多くは顔の片側に起こり、まれに両側に生じることもあります。外見上の異常がないため診断が遅れやすい点が、この疾患の特徴です。
7日は「世界三叉神経痛の日」でした。三叉神経痛に苦しむ患者の困難を伝え、疾患に対する社会的関心と認識を高めるために設けられました。
落ち着いたからといって終わりではない……「休止期」の落とし穴
三叉神経痛の痛みは持続するというより、波のように強い痛みが現れては消えることを繰り返します。痛みが出た後、一定期間痛みのない「無痛期」が訪れることもあり、この時期のために「治った」と誤解する人が少なくありません。
ボンセン記念病院の脳神経外科、イ・サンフン名誉院長は「三叉神経痛の多くは、痛みの休止期があることが多いです」と述べました。その上で「最初の強い痛みが起きた後は、治療の有無にかかわらず、しばらく痛みのない時期が現れることがあります。しかし、その後の2回目の痛みからは激痛が出て、痛みの強さと頻度が徐々に増えるケースが多いです」と説明しました。
痛みの引き金も日常的です。歯磨き、洗顔、食事、会話、顔に触れることなど、普段なら何でもない軽い刺激がトリガーになります。
歯磨きさえ怖くなる病気……薬が効かなくなり始めた時
初期は薬物療法への反応が良く、痛みが軽減することが多いです。しかし一部の患者では、時間の経過とともに薬効が落ちたり、痛みが再び強くなったりします。薬の用量を増やすことで、めまい、眠気などの副作用が出ることもあります。
そうなると、手術治療を検討することになります。代表的な術式が微小血管減圧術(Microvascular Decompression, MVD)です。三叉神経を切断したり損傷させたりするのではなく、神経と血管を離して症状の改善を図る治療法です。
耳の後ろ側を切開し、頭蓋骨に小さな穴を開けたうえで、神経を圧迫している血管を探し出し、神経から離します。必要に応じて、その間にテフロン(Teflon)素材の医療用パッドを挿入し、血管の拍動や圧迫が神経に伝わらないようにします。
薬物療法が主に痛みのコントロールを目的とするのに対し、微小血管減圧術は、痛みを引き起こす血管による神経圧迫を直接解消します。適切な患者に実施すれば、長期間にわたり痛みが消失したり大きく軽減したりする効果が期待できます。
ただし、手術後も痛みが残ったり再発したりする可能性はあります。つまり、微小血管減圧術は長期的な治療効果が期待できる一方で、患者の状態と手術リスクを総合的に判断せざるを得ません。
微小血管減圧術5100例……一つの道を歩んできた時間の記録
イ・サンフン名誉院長は長年にわたり、三叉神経痛と顔面けいれん症の患者を治療し、微小血管減圧術を行ってきました。顔面けいれん症と三叉神経痛の患者を対象とした微小血管減圧術の実績だけで5100例(2026年7月末現在)に達します。

微小血管減圧術は、脳の深部で髪の毛ほどの太さの神経と血管を扱う精密手術であるだけに、執刀医の経験が治療成績を左右する要素として挙げられます。5100例という数字は、1人の脳神経外科医が数十年にわたり、同じ疾患と同じ手術に取り組んできた時間の記録でもあります。
診察室に持っていく「痛み日記」……痛かった瞬間を書き留めると見えてくること
ただし、顔が痛いからといって、すべてが三叉神経痛というわけではありません。顔の痛みは、歯や顎関節、耳周囲の疾患など、さまざまな原因で起こり得ます。痛みの性状や部位、持続時間、誘発因子などを総合的に確認し、原因を正確に鑑別するプロセスが必要です。
受診前に痛みの記録を残しておくと役立ちます。具体的には、△痛みが始まった時点と部位 △持続時間と強さ △歯磨き・洗顔・食事・会話など特定の行動との関連性 △痛みがなかった期間――などを書き留めておくと、診断に有用な手がかりになります。
これまで大したことはないと見過ごしてきた顔の痛みを、改めて点検する時です。一度治まった痛みが再び現れた、あるいは強さと頻度が増しているなら、記録を用意して専門医を受診するのが望ましいでしょう。
