「肉を食べないと力が出ない!」という言葉からも分かるように、韓国では肉類の消費傾向が顕著である。2000年代以降、韓国人の肉の消費量は増え続けている。一方で、米の消費量は急速に減っている。
2020年、韓国人1人が1年間に摂取した肉類(牛肉・豚肉・鶏肉)は53.7kgで、米の消費量57.7kgに迫ったが[1]、2022年にはついに韓国人の主食が肉へと置き換わった。1人当たり年間の肉類消費量が58.4kgとなり、米の消費量56.7kgを上回ったのである[2]。

私たちの祖先は山盛りのご飯を食べ、野原に出て働く力を得ていた。「ご飯の力で生きる」という言葉もあった。しかし、今では昔話になった。韓国人の食習慣は完全に変わり、今ではご飯より肉を多く食べる[3]。
肉をこれほど多く食べるのは良いことなのだろうか。答えは否定的である。実は、肉は発がんリスクを高め得る食品である。
2015年10月26日、世界保健機関(WHO)は、ハムやソーセージなどの加工肉を、たばこと同様に発がんリスクが高い「グループ1の発がん性物質」に分類し、牛肉や豚肉などの赤身肉を、発がん可能性が高い「グループ2Aの発がん性物質」に分類した。そして、これらの摂取が大腸がん、膵がん、前立腺がんの発生を増加させると発表した[4]。
肉とがん発生の科学的エビデンス
2021年、米ハーバード大学が肉とがん発生に関する148本の論文をメタ解析した結果、赤身肉や加工肉を多く摂取すると各種がんが増加する、と結論づけた(*各種がんの増加率:乳がん9%、子宮内膜がん25%、大腸がん21%、直腸がん26%、肺がん20%、腎がん19%、肝がん22%)[5]。
2020年、英オックスフォード大学でも、健康な成人47万人を平均7年間追跡した。がん患者2万8000人を調べたところ、赤身肉を1日50g以上摂取すると大腸がんの発生が36%増加し、加工肉を1日20g以上摂取すると直腸がんが26%増加した。家禽(鶏、アヒル)も1日30g以上摂取するとリンパ系および造血器腫瘍が17%増加し、肉とがんは密接な関係にあった[6]。
最近、韓国人の「若年性大腸がん」の発症率が世界1位という衝撃的な結果が出た。

2022年、世界最高峰の医学学術誌の一つであるランセット(Lancet)に掲載された論文によると、韓国人の20~49歳の大腸がん発生率は人口10万人当たり12.9人で、調査対象42カ国の中で最も高かった[7]。これはオーストラリア(11.2人)や米国(10人)よりも高い数値である。中高年層から若年層まで、韓国人の大腸がん発症率は世界1位だった[8, 9]。
一般に大腸がんは50歳以降に主に発症するが、「若年性大腸がん」とは50歳未満で発症した大腸がんを指す。若年性大腸がんが増える原因として、欧米型の食習慣が挙げられる。
特に大腸がんは「赤身肉」や「加工肉」の摂取と密接に関連しており、このような肉中心の食事を好む若年層では、大腸がんの発症リスクが高まる可能性がある。大腸がんは若いほど再発率が3倍も高く、生存率も低いため、特に注意が必要だ[10]。
牛肉、豚肉は悪くて、魚やチキンは良い?
一般に、赤身肉は有害だが白身肉(魚、チキン)は問題ないと言われがちだ。実際はそうではない。
長寿研究で有名な米ロマリンダ大学の報告によると、赤身肉を週1回以上食べる人は、食べない人に比べて大腸がんの頻度が約2倍増加し、白身肉を週1回以上食べる人は大腸がんの頻度が約3倍増加した[11]。白身肉である魚やチキンも、大腸がんリスクの面では安全ではない。
では、なぜ肉はがんを引き起こすのか。牛肉などの赤身肉を高温で調理したり、バーベキューのように火に直接触れさせたりすると、肉に含まれていたヘム鉄(heme iron)が、N-ニトロソ化合物や多環芳香族炭化水素という強力な発がん物質に変化する[12, 13, 14, 15]。
ハムやソーセージなどの加工肉に食品保存料として添加される亜硝酸ナトリウムや亜硝酸塩も、体内に入るとニトロソアミンという発がん物質になる[16]。
たんぱく質と成長ホルモン(IGF-1)、がんを大きくするつながり
がんの発生を促進するホルモンもある。IGF-1(Insulin-like Growth Factor-1、インスリン様成長因子-1)である。
これは正常な人体ホルモンで、下垂体から分泌される成長ホルモンのシグナルに応じて、主に肝細胞で産生される。このホルモンは骨、筋肉、神経などあらゆる細胞の成長を促進する作用があり、小児の成長に重要な役割を果たす。年齢とともに徐々に低下するが、健康な体を維持するには適度なIGF-1濃度を保つことが望ましい[17]。
しかし、IGF-1は「諸刃の剣」だ。適度なIGF-1は正常細胞の成長や損傷した細胞の修復に役立つ一方、高濃度のIGF-1はがん細胞の増殖を助ける[18]。
ここで、IGF-1の分泌を促進する物質がある。たんぱく質である。たんぱく質が体内に入ると、肝臓でIGF-1が分泌される[19]。細胞を作る材料が入ってきたのだから、細胞の成長作業を開始せよ、というシグナルを送るのである。
小児や思春期など成長期には細胞の成長が必須だが、成長しきった成人では、細胞の成長よりも細胞の維持・修復に足りる程度のたんぱく質で十分であり、たんぱく質をそれほど多く必要としない。それにもかかわらず、たんぱく質を過剰に摂取すると肝臓でIGF-1がより多く産生され、増えたIGF-1は正常細胞だけでなく異常細胞の成長まで促進する。その過程で、がん細胞の増殖も促進される可能性がある。[20]。
たんぱく質の種類が重要だ。たんぱく質は大きく動物性たんぱく質と植物性たんぱく質に分けられる。IGF-1の値はたんぱく質の総量に比例するのではなく、動物性たんぱく質の摂取量に比例する。植物性たんぱく質とは無関係である[21]。
動物性たんぱく質がIGF-1分泌を促進する理由は、動物性たんぱく質のアミノ酸組成比が人体に近いからだ。私たちは一般に質の高いたんぱく質として動物性たんぱく質を求めるが、がん発生という観点から見ると、皮肉にも質の高いたんぱく質ほど、がんの発生を起こしやすくする。
肉を好んで食べることは、がんの発生を早める。肉の摂取を減らすことが、がん予防の第一歩である。
ソン・ムホ 医学博士、整形外科・生活習慣病専門医

参考文献
1. 中央日報 https://www.joongang.co.kr/article/25067659#home
2. ハンギョレ https://www.hani.co.kr/arti/science/future/1078387.html
3. KBSニュース https://news.kbs.co.kr/news/pc/view/view.do?ncd=7903768
4. V Bouvard, D Loomis, KZ Guyton, et al. Carcinogenicity of consumption of red and processed meat. The Lancet Oncology 2015;16:1599-1600.
5. MS Farvid, E Sidahmed, ND Spence, et al. Consumption of red meat and processed meat and cancer incidence: a systematic review and meta-analysis of prospective studies. Eur J Epidemiol 2021;36(9):937-951.
6. A Knuppel, K Papier, GK Fensom, et al. Meat intake and cancer risk: prospective analyses in UK Biobank, International Journal of Epidemiology 2020;49(5):1540–1552.
7. SG Patel, JJ Karlitz, T Yen, et al. The rising tide of early-onset colorectal cancer: a comprehensive review of epidemiology, clinical features, biology, risk factors, prevention, and early detection. Lancet Gastroenterol Hepatol 2022;7(3):262-274.
8. 時事ジャーナル https://www.sisajournal.com/news/articleView.html?idxno=266354
9. 医学新聞 http://www.bosa.co.kr/news/articleView.html?idxno=2158062
10. KBSニュース https://news.kbs.co.kr/news/pc/view/view.do?ncd=3284452
11. PN Singh, GE Fraser. Dietary Risk Factors for Colon Cancer in a Low-risk Population. American Journal of Epidemiology 1998;148(8):761-774.
12. AJ Cross, JR Pollock, SA Bingham. Haem, not protein or inorganic iron, is responsible for endogenous intestinal N-nitrosation arising from red meat. Cancer Res 2003;63:2358-60.
13. SMK Gamage, L Dissabandara, AK Lam, V Gopalan. The role of heme iron molecules derived from red and processed meat in the pathogenesis of colorectal carcinoma. Crit Rev Oncol Hematol 2018;126:121-8.
14. M Chiavarini, G Bertarelli, L Minelli, R Fabiani. Dietary intake of meat cooking-related mutagens (HCAs) and risk of colorectal adenoma and cancer: a systematic review and meta-analysis. Nutrients 2017;9:514.
15. A Fonseca-Nunes, P Jakszyn, A Agudo. Iron and cancer risk—a systematic review and meta-analysis of the epidemiological evidence. Cancer epidemiology, biomarkers & prevention 2014;23(1):12-31.
16. RL Santarelli, F Pierre, DE Corpet. Processed meat and colorectal cancer: a review of epidemiologic and experimental evidence. Nutr Cancer 2008;60:131-44.
17. D Le Roith. Insulin-like growth factors. New England Journal of Medicine 1997;336(9):633-640.
18. AH Nwabo Kamdje, PF Seke Etet, MJ Kipanyula, et al. Insulin-like growth factor-1 signaling in the tumor microenvironment: Carcinogenesis, cancer drug resistance, and therapeutic potential. Front Endocrinol (Lausanne) 2022;13:927390.
19. JM Ketelslegers, D Maiter, M Maes, et al. Nutritional regulation of insulin-like growth factor-I. Metabolism 1995;44:50-57.
20. DL Kleinberg, TL Wood, PA Furth, AV Lee. Growth hormone and insulin-like growth factor-I in the transition from normal mammary development to preneoplastic mammary lesions. Endocrine reviews 2009;30(1):51-74.
21. NE Allen, PN Appleby, GK Davey, et al. The associations of diet with serum insulin-like growth factor I and its main binding proteins in 292 women meat-eaters, vegetarians, and vegans. Cancer Epidemiology Biomarkers & Prevention 2002;11(11):1441-1448.
